【第13回】株価が下がったとき、私はどうするか|「取り返そう」としない投資術

株価下落時に損失を取り返そうとせず、10%・15%の下落を目安に投資判断を見直す考え方を示したアイキャッチ画像 投資の考え方

前回は、株価が上がっても私が簡単には売らない理由について書きました。

では逆に、買った株が下がったときはどうするのか。

「長期投資なのだから、そのうち戻るまで持っていればいい」

私はそうは考えていません。

上がった株を簡単に売らないのと、下がった株を何も考えずに持ち続けるのは、まったく別の話です。

私は基本的に、株を買うときは「逆張り」で入ることが多いです。

株価が勢いよく上昇しているところを追いかけるより、全体相場の下落や需給の悪化などで値下がりした会社の中から、「この価格なら買ってもいい」と思えるものを探します。

もちろん、自分では十分に下がったと思って買っても、そこからさらに下がることはあります。

株式市場では、そんなことは普通に起こります。

大切なのは、そこからです。

自分では「十分下がった」と思って買っている

逆張りで買う以上、私は買った時点である程度「安くなった」と判断しています。

ところが市場は、私の判断に合わせて動いてくれるわけではありません。

買った翌日からさらに下がることもあります。

その時、まず見るのは、

「新しい悪材料が出たのか?」

ということです。

会社の業績が悪化したのか。

業界を取り巻く環境が変わったのか。

何か重大なニュースが出たのか。

それとも、相場全体の下落や一時的な需給によるものなのか。

特に大きな悪材料が見当たらなければ、少しくらい下がったからといって、私はすぐには売りません。

最初から安くなったところを狙って買っている以上、多少の値下がりは想定の範囲だからです。

買値から10%下がったら「注意マーク」

ただ、買値から10%程度下がってくると、私の中では少し意味が変わってきます。

10%下がったから機械的に売る、ということではありません。

しかし、

「最初の見立てが本当に正しかったのか、もう一度確認しよう」

という注意マークを立てます。

ここからは、

* なぜ下がっているのか

* 業績は想定どおりなのか

* 競争力は落ちていないか

* 財務に問題はないか

* 業界全体に構造的な問題が起きていないか

などを改めて見ます。

株価下落時の判断目安として、買値から10%下落で注意、15%前後で投資判断を再確認する流れを示した図

株価が10%下がったところから、未来は一つではありません。

そこから会社の業績が回復して、再び買値を超えていくこともあります。

一方で、自分の見立てが間違っていて、そのまま20%、30%と下落していくこともあります。

ここで大切なのは、

「いつか戻るだろう」だけで判断しないこと

だと思っています。

15%前後まで下がったら、もう一度「買いたいか」を考える

私は、含み損が15%前後まで広がってくると、かなり真剣に売却を考えます。

それでも会社に自信があり、長く持ちたいと思うのであれば保有する選択肢もあります。

ただ、そのとき自分に問いかけたいのが、

「もし今、この株を一株も持っていなかったら、この価格で新しく買いたいと思うか?」

という質問です。

これは意外と重要です。

すでに保有している株には、人間はどうしても執着します。

特に含み損になっていると、

「ここで売ったら損が確定してしまう」

と思ってしまいます。

しかし、現在その株を持っているという事実を一度頭から外して、

「今、現金を持っていたとして、この会社に投資するか?」

と考える。

それでも欲しいと思えるなら、まだ投資シナリオは生きている可能性があります。

逆に、

「新規では買いたくない。でも損だから売りたくない」

という状態なら、かなり注意した方がいいと思っています。

一度売って、それでも欲しいなら買い直せばいい

私の場合、ある程度下落して判断に迷ったときには、一度売却することもあります。

そして、それでも本当にその会社が欲しいと思えば、改めて買えばいい。

これが簡単そうで、実際にはなかなかできません。

人間は損を確定することを嫌います。

だから、

利益が出ている株は「下がったら嫌だ」と早く売る。

損が出ている株は「いつか戻る」と長く持つ。

という、資産形成ではあまり望ましくない行動を取りがちです。

一度売却して判断をリセットすれば、その後株価が回復してくるなら再び買うこともできます。

一方で、さらに下落するのであれば、

「やはり自分の見立てが甘かった」

と考え、その株はいったん忘れる。

重要なのは、自分の最初の判断を守ることではありません。

自分のお金を守ることです。

(注)10%や15%という数字は、あくまで私自身の目安ですので、ご参考程度でお願いします。

経理の仕事で身についた「悪い状態を放置しない」感覚

私は若い頃、経理の仕事をしていました。

その当時、有価証券など時価のある資産について、大きく価格が下落すると評価損や減損を検討するという実務に触れました。

会社の会計でも、価値が大きく下がった資産を、

「いつか戻るかもしれない」

という理由だけで、いつまでも元の価値のまま評価するわけにはいきません。

この経験は、私自身の株式投資にも少なからず影響していると思います。

時価が大きく下がっているのであれば、

「何か自分が見落としているのではないか」

と考える。

損失を見ないふりをしても、資産価値が戻るわけではありません。

悪い状況ほど、早く認識した方が次の手を打ちやすい。

私はそう考えています。

PERやPBRだけで「安い」とは判断しない

株価が下がると、

「PERが低くなったから割安だ」

「PBRが1倍を下回ったから安い」

という話をよく聞きます。

もちろん、私もPERやPBRは見ます。

ただ、それだけで判断することはありません。

PER17倍を基準にするとか、PBR1倍を下回れば割安という考え方もありますが、あくまで参考値だと思っています。

なぜなら、適正な水準は業界や会社の成長性によって大きく違うからです。

成長が期待されている会社なら、PERやPBRが高いのはある意味当然です。

私の場合、例えばPER17倍なら、現在の1株利益に対して株価が約17倍まで評価されている、とまず捉えます。

その上で

「この利益水準は続くのか?」

「今後さらに利益が増えていくのか?」

を考えます。

利益が今後大きく成長するなら、現在のPERが多少高くても、将来から見れば割高ではなかったということもあります。

逆に、PERが低くても利益そのものが減っていく会社なら、単純に「安い」とは言えません。

株価だけではなく、その先にある会社を見る。

これは下落局面ほど大切だと思っています。

損切りは「負け」ではない

株を売って損失を確定すると、

「負けた」

という感覚を持つ人も多いと思います。

私も昔はそうでした。

しかし今は、少し考え方が違います。

例えば100万円投資して、85万円になったところで売ったとします。

15万円の損失です。

確かに資産は減りました。

しかし、85万円の現金は残っています。

その85万円を、もっと期待できる会社に投資することもできます。

つまり、

損切りは投資の終了ではありません。

残った資金を次の機会へ移す行為でもあります。

株式市場には、次のチャンスが何度もやってきます。

一つの銘柄に固執して資金を動かせなくなるより、間違いを認めて次へ進める方がいい。

私はそう考えています。

含み損状態において、信用取引は怖い

ここで大きく事情が変わるのが、信用取引です。

私の感覚では信用取引は、実質的に「借金を使った投資」だと考えています。

会計的なイメージで言えば、資産側には株式がある一方で、負債側には借入に相当するものがある。

自分の資金以上のポジションを持つことができるため、株価が上がれば利益は大きくなります。

ある意味では、

資産を一気に増やす魔法の杖

に見えることもあります。

ただし当然、逆もあります。

株価が下がれば、損失も大きくなります。

そして一定以上損失が拡大すれば、追加保証金などの問題も出てきます。

現物株なら、自分で考える時間が残されている場合でも、信用取引では市場の方から決断を迫られることがあります。

私はここが非常に怖いと思っています。

ITバブルの頃、1日で200万円、300万円動いた

私はITバブルの頃、信用取引で大きく売買していた時期があります。

相場が良い日は、それこそ一つの銘柄だけで、

1日に200万円、300万円

と評価額が増えることもありました。

これは強烈です。

普通に働いて得るお金とは、まったく違うスピードで資産が増えていく。

当然、気持ちも大きくなります。

ところが、上がるときに200万円、300万円動く株は、下がるときにも同じように動きます。

今日200万円下がる。

翌日も下がる。

すると、

「さすがに明日は上がるだろう」

と思うのです。

しかし、その期待に根拠があるとは限りません。

さらに下がることもあります。

それでも、少し前まで1日に数百万円増えていた記憶がある。

だから、

「もう少し待てば戻る」

と思ってしまう。

そして売る決断が遅れていく。

これが当時の私でした。

大きく負けると「信用で取り返す」しかなくなる

信用取引で損失を取り返そうとしてポジションを大きくし、さらに損失が拡大する悪循環を示した図

信用取引には、もう一つ怖いところがあります。

大きく損をすると、

その損を取り返すためにも、また信用取引を使いたくなる

ということです。

現物取引で少しずつ取り戻していては時間がかかる。

そう感じてしまう。

すると、

信用取引で負ける。

↓

信用取引で取り返そうとする。

↓

さらに大きなポジションを取る。

↓

また損をする。

という悪循環に入る可能性があります。

この状態になると、心の余裕がなくなります。

本来であれば、

「この会社は良い会社なのか」

「この価格で買う価値があるのか」

を考えるべきなのに、

「今日いくら取り返せるか」

ばかり考えるようになる。

投資がギャンブルに変わる瞬間

私は、ここが株式投資がギャンブルに変わる瞬間の一つだと思っています。

株式投資は本来、企業に資金を置き、その会社の成長によって自分の資産も育てていくものです。

しかし、

「損を取り返したい」

という気持ちが目的になると、会社を見なくなります。

今日上がるか。

明日上がるか。

この値動きでいくら取れるか。

そればかりになる。

もちろん信用取引そのものを否定するつもりはありません。

経験豊富な投資家がリスク管理を徹底したうえで使う方法もあるでしょう。

ただ、少なくとも、

投資経験がまだ少ない人。

大きな失敗を経験していない人。

損切りすることに強い抵抗を感じる人。

には、私は信用取引を勧めません。

特に、

上がった株はすぐ利益確定するのに、損が出た株は戻るまで持ってしまう。

そういう傾向があるのであれば、信用取引には手を出さない方がいいと思っています。

人間は、やはり欲のある動物

投資を長く続けていると、人間というのは本当に欲のある生き物だと思います。

株価が上がれば、

「もっと上がるかもしれない」

と思う。

下がれば、

「明日は戻るだろう」

と思う。

そして自分にとって都合の悪い現実ほど、受け入れるのが遅くなります。

だから私は、

「自分ならいつでも冷静に判断できる」

と思わない方がいいと思っています。

人間は弱い。

欲にも負けます。

それを前提に、致命的な失敗をしない仕組みを作っておく。

それが大切なのではないでしょうか。

資産形成では、守ることが結局一番の近道

一気に資産を増やす方法は魅力的に見えます。

でも、一気に増やせる方法には、一気に失う可能性もあります。

特に資産形成の途中では、

大きく儲けることよりも、大切なお金を守ること。

私はその方が重要だと思っています。

100万円を200万円にすることよりも、100万円を10万円にしないこと。

市場から退場しないこと。

残った資金で次の投資ができること。

それを繰り返す。

一見すると遠回りです。

でも実際には、

急がば回れ。

それが億り人への近道なのかもしれません。

そして何より、無理な取引をしないことは精神衛生上も良いと思います。

株価が気になって仕事が手につかない。

夜も米国市場が気になる。

朝起きて真っ先に株価を見る。

そこまで自分を追い込んでしまえば、資産形成のために始めた投資が、生活そのものを苦しくしてしまいます。

私は、そこまでして投資する必要はないと思っています。

最後に

株価が下がったとき、大切なのは、

損失を取り返すことではありません。

次の投資判断ができる資金と、心の余裕を残すことです。

上昇局面では、簡単に利益を確定しない。

一方、下落局面では、「いつか戻る」という希望だけで持ち続けない。

会社を見直し、自分の判断も見直す。

そして、間違っていると思えば撤退する。

株式市場には、また次のチャンスがあります。

一度の失敗で市場から退場しなければいい。

私が若い頃に経験した信用取引の失敗から学んだことは、結局そこだったのだと思います。

資産形成は、欲に勝つゲームではない。

欲に負けたとしても、致命傷を負わない仕組みを作ること。

それが、大切なお金を守りながら市場に居続けるための、私なりの投資の考え方です。

奥野以道

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