【第12回】なぜ私は株を頻繁に売買しないのか|長期保有で「市場に居続ける」という考え方

長期投資で市場に居続ける投資の考え方を示したアイキャッチ画像 投資の考え方

株式投資をしていると、「ある程度上がったら利益確定した方がいい」と考えることがあります。

私自身、昔からそういう考え方を完全に否定してきたわけではありません。

特に日本が長くデフレと低成長の時代にあった頃は、株価が大きく上昇する企業は今ほど多くなかったように思います。

20%、30%上がったところで一度利益を確定する。

それも一つの合理的な方法だったのかもしれません。

しかし私は、基本的には株を頻繁に売買しません。

もちろん、何があっても永久に持ち続けるという意味ではありません。

会社を取り巻く環境が大きく変わったと感じたときや、より魅力を感じる企業へ資金を移したいときには売ることもあります。

それでも、単に「かなり上がったから」「ここが天井のような気がするから」という理由だけでは、簡単には売らない。

今回は、その理由について書いてみたいと思います。

売った株を、もっと高い値段で買い直せるか

株価が1,000円になったとします。

「ここまで上がれば十分だろう」

そう考えて売却し、利益を確定したとします。

ところが、その後も会社の業績が良く、株価が1,100円、1,200円と上昇していった。

このとき、再びその株を買えるでしょうか。

理屈だけなら簡単です。

将来もっと上がると思うのであれば、1,200円でも買えばいい。

しかし実際に自分のお金で投資をしていると、これが意外と難しいのです。

人間の頭には、以前自分が売った価格が残っています。

「自分は1,000円で売った株なのに、なぜ今さら1,200円で買うのか」

そんな心理が働きます。

株価はあくまでその時点の時価です。

1,000円で売ったという事実と、現在1,200円であることには本来何の関係もありません。

それでも、以前の売値が自分の中の基準になってしまう。

投資では、こうした心理的な抵抗が意外と大きいと感じています。

チャートの一例

三菱重工を半分売って分かったこと

私にも、「さすがに上がりすぎではないか」と考えて売った経験があります。

三菱重工です。

私はかなり低い取得価格で2単元(200株)保有していました。

その後の株式分割を考慮すると2,000株相当となり、その半分を売却したため、現在も1,000株を保有しています。

その後、防衛関連銘柄として注目され、株価は大きく上昇しました。

大型株としては驚くほどの上昇でした。

PERなどの指標を見ても、

「さすがに少し評価されすぎではないか」

と感じ、私は保有していた株の半分を売却しました。

利益は十分に出ました。

その判断自体を後悔しているわけではありません。

しかし、その後も株価はさらに上昇しました。

株式分割も行われましたが、結果として、三菱重工は大型株でありながら長期ではテンバガーと呼べるほど大きく成長した銘柄になりました。

もしすべて持ち続けていれば、利益はさらに大きかったことになります。

現在も残りの1,000株は保有しています。

この経験から改めて感じたのは、

「十分上がった」と思っても、それが本当に天井かどうかは誰にも分からない

ということです。

だから私は、単に株価が上がったという理由だけで、すべて売ってしまうことには慎重です。

株価が大きく上がる日は、突然やってくる

もう一つ、頻繁に売買しない大きな理由があります。

株価が大きく動く材料は、こちらの都合に合わせて発表されるわけではありません。

例えば、

業績予想の上方修正。

増配。

大規模な自社株買い。

MBOやTOB。

新しい資本提携。

こうしたニュースは、取引時間が終わった後に発表されることも多くあります。

日本株であれば、15時30分以降に会社から重要な発表が出ることも珍しくありません。

翌朝、株価は前日の終値よりかなり高いところから始まる。

場合によっては買い注文が殺到し、しばらく値段がつかないこともあります。

私はこれまで、こうした場面を何度も経験してきました。

MBOや買収の対象になった会社もありました。

商社株が大型の自社株買いを発表して大きく上昇したこともあります。

東京海上のように、資本政策や提携への期待から株価が強く反応することもあります。

また、日本企業の中には期初の業績予想を比較的保守的に出す会社もあり、期中の上方修正をきっかけに株価が大きく動くこともあります。

こうした上昇をすべて事前に予測することは、私にはできません。

だからこそ、

良い会社だと思うのであれば、株式の状態で市場に居続ける

ということにも意味があると考えています。

「材料を見てから買えばいい」は意外と難しい

会社の良いニュースが出てから買えばいい。

そう考えることもできます。

しかし、良いニュースが出た時点で、株価はすでにそれを織り込み始めています。

前日の終値が1,000円だった株が、好材料を受けて翌朝1,100円から始まることもあります。

さらに強ければ、そのまま1,150円、1,200円と上がっていく。

良いニュースを確認してから買おうとすると、最も大きく動いた部分をすでに逃していることがあります。

逆に、悪いニュースで突然下落することもあります。

当然、株を持ち続けることにはリスクがあります。

それでも株式の期待リターンが預金などより高いのは、こうした不確実性を引き受けているからでもあると私は考えています。

最初から大きなお金を投じる必要はありません。

少額でもいい。

株価が下がる怖さも経験する。

上がる喜びも経験する。

配当を受け取る感覚も知る。

そうやって少しずつ、市場の値動きに慣れていくことが大切だと思っています。

売るたびに、税金で再投資資金は減る

もう一つ、売買について考えるときに忘れてはいけないのが税金です。

例えば、課税口座で100万円分の株を買ったとします。

その株が120万円になり、売却した。

利益は20万円です。

上場株式等の譲渡益には、原則として約20.315%の税金がかかります。

単純化して計算すると、20万円の利益に対する税金は約4万630円です。

つまり、120万円で売却しても、税引後に手元へ残る金額は約115万9,370円になります。

ところが、その株の価格はすでに120万円です。

もし同じ株数をそのまま買い戻したいのであれば、約4万円を追加しなければなりません。

そして、その間に株価がさらに上がってしまえば、必要な追加資金はもっと大きくなります。

(注)もちろん、NISA口座であれば譲渡益は非課税ですし、課税口座でも損益通算などによって実際の税負担は変わります。

ここでは単純な例として考えています。

しかし、

利益確定を繰り返すたびに、税金によって再投資できる元本が減る

という点は、長期投資では無視できないと思っています。

配当を受け取りながら、会社を育てる

私が株を頻繁に売らない理由は、値上がり益だけではありません。

配当もあります。

現在、私は約100銘柄を保有していますが、今年もそのうち約86銘柄が増配予定です。

もちろん、実際の配当額や増配の有無は会社の業績によって変わります。

それでも、長く株式を持っていると、

会社の成長とともに配当も育っていく

という経験をすることがあります。

私は、年に1回あるいは2回配当を受け取りながら、その会社の成長を見守る感覚で株を持っています。

株価が毎日上がる必要はありません。

会社が利益を増やし、配当を増やし、企業価値を高めていけばいい。

そう考えると、日々の株価の上下に反応して売買する必要は、それほどなくなります。

配当利回りは、買った時点だけを見るものではない

株を買うとき、配当利回りを見る人は多いと思います。

例えば100万円投資して、年間3万円の配当を受け取るのであれば、取得時の配当利回りは3%です。

しかし、その会社が成長して増配を続け、年間配当が6万円になったとします。

自分が最初に投じた金額は100万円のままです。

すると、自分の取得価格に対する配当利回り(いわゆる取得利回り)は6%になります。

市場で表示されている現在の配当利回りが3%だったとしても、自分の取得価格から見れば6%と倍になるのです。

長期保有では、こうしたことが起こります。

最初に見たときは、それほど高配当株に見えなかった会社が、成長と増配によって、自分にとって非常に高い利回りを生む株になっていく。

私はこれを、株を「育てる」感覚に近いと思っています。

頻繁に売買しないことは、「何もしない」ことではない

長期保有というと、

「買ったら放置する」

というイメージを持たれることがあります。

でも私は、少し違うと思っています。

会社の決算を見る。

株主総会の資料を見る。

配当政策を見る。

競争力が維持されているかを見る。

財務が悪化していないかを見る。

会社を見ながら、持ち続ける。

つまり、

売らないことも、一つの投資判断

なのです。

市場では毎日株価が動いています。

何もしないことに不安を感じて、売ったり買ったりしたくなることもあります。

しかし、良い会社を見つけ、その会社の成長に自信が持てるのであれば、

「動かない」

という選択肢もあります。

私が簡単には売らない理由

私は、株価の天井を当てる自信がありません。

上がりすぎたと思って売った株が、その後さらに大きく上がることもあります。

良いニュースは突然発表されます。

増配も、自社株買いも、上方修正も、MBOも、こちらのタイミングに合わせてくれるわけではありません。

そして利益確定をすれば、課税口座では税金も発生します。

一方で、良い会社を長く持っていれば、配当を受け取りながら、増配や企業成長の恩恵を受けられる可能性があります。

だから私は、

大きく投資シナリオが変わったと感じたとき。

あるいは、もっと期待したい会社へ資金を移したいとき。

そうした理由がない限り、簡単には株を売りません。

頻繁に売買して利益を積み上げる方法もあります。

それを否定するつもりはありません。

ただ、私はその方法を選ばなかった。

私に合っていたのは、

良いと思った会社を持ち、市場に居続け、配当を受け取りながら育てること。

それが、奥野以道流の投資の考え方です。

そして結局のところ、

相場を当てるより、相場に対処する。

私はこれからも、その考え方で市場に居続けたいと思っています。

奥野以道

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