はじめに|株を買うと、何が変わるのでしょうか?
前回は、大航海時代の交易船を例に、株式投資の基本的な考え方をご紹介しました。
船長の能力、船員の経験、航海の目的地、そして出資条件。
どの船の未来に自分のお金を託すのか。それを考えることが株式投資の本質だというお話でした。
では、実際に会社の株式を買うと、私たちはどのような立場になるのでしょうか。
実は、株式を買うということは、その会社のオーナーの一人になるということなのです。
今回は、この「株主」という立場と、株式が売買される仕組みについて考えてみましょう。
株主とは、会社の所有者の一人
例えば、ある会社が新しい工場を建設したいと考えているとします。しかし、工場の建設には多額のお金が必要です。会社は銀行からお金を借りることもできますが、新しく株式を発行し、投資家から資金を集める方法もあります。
この株式を保有する人を「株主」と呼びます。
株主は、その会社の所有者の一人です。
ここで重要なのは、会社にお金を貸すことと、株式を持つことは違うという点です。
銀行から借りたお金は、原則として利息を付けて返済しなければなりません。一方、株式を発行して集めたお金は、通常、会社が株主に返済する必要がありません。
その代わり、株主は会社の事業が成功すれば利益を得られる可能性があり、失敗すれば損失を被ることもあります。つまり、株主は会社の成果とリスクを引き受ける存在なのです。

株主には、どんな権利があるの?
株主には、さまざまな権利があります。
初心者の方には、まず代表的な3つを覚えていただければ十分でしょう。
① 配当金を受け取る権利
会社が配当を出すと決めた場合、株主は保有する株式などに応じて配当金を受け取ることができます。
例えば、1株当たり年間50円の配当金を出す会社の株式を100株保有していれば、年間5,000円の配当金を受け取れる計算です。
ただし、配当金は必ずもらえるわけではありません。会社の業績や経営方針によって、減額されたり、支払われなくなったりすることもあります。
② 株主総会で議決権を行使する権利
株式会社では、経営に関する重要な事項を株主総会で決議します。
例えば、会社の経営を担う取締役の選任などです。議決権を持つ株主は、こうした決議に参加できます。
日本の上場会社では、通常、100株を1単元とする普通株式が一般的で、1単元につき1個の議決権があります。つまり、保有株数が多いほど、一般には議決権も多くなります。
ただし、株主が日々の仕事を直接指示するわけではありません。実際の経営は取締役などが担います。
③ 会社の残余財産の分配を受ける権利
もし会社が解散・清算する場合、借入金などを返済した後に財産が残れば、株主に分配されることがあります。
しかし、会社が経営破綻した場合、財産が残らず、株主には何も戻ってこないこともあります。
なお、株主は原則として出資額を超えて会社の借金を返済する義務を負いません。これを「株主有限責任」といいます。

※株式の種類や保有条件によって、権利の内容は異なる場合があります。
株主になると、会社を見る目が変わる
私は、株主総会に参加することも、株式投資の面白さの一つだと思っています。
実際に会社の経営方針を聞き、経営者がどのような考えを持っているのかを知ることができます。
決算資料の数字だけでは見えてこない、会社の雰囲気や経営陣の姿勢を感じられることもあります。
もちろん、株主総会に出席しなければ株式投資ができないわけではありません。ただ、株式を保有すると、その会社の商品やニュース、経営方針などが、以前よりも気になるようになるものです。
例えば、普段利用しているお店の運営会社の株主になれば、店舗の混雑や新商品の売れ行きにも目が向くかもしれません。会社の活動を、単なる消費者ではなく、オーナーの一人として見る。
それも株式投資の魅力だと思います。
株式会社なら、どこの株でも買えるの?
さて、ここで一つ疑問が出てきます。
日本には数多くの株式会社がありますが、その株式を誰でも自由に購入できるのでしょうか。
答えは、いいえです。
私たちが一般的な証券口座で売買するのは、主に「上場株式」と呼ばれるものです。
上場株式とは?
上場株式とは、証券取引所で売買できる株式のことです。日本では、東京証券取引所などで多くの企業の株式が取引されています。
上場会社には、業績や経営状況などについて、一定の情報開示が求められています。投資家は、公開された情報を参考にしながら、その会社に投資するかどうかを判断できます。
非上場株式とは?
一方、証券取引所に上場していない会社の株式を「非上場株式」と呼びます。非上場会社にも株主は存在しますが、証券取引所で自由に売買することはできません。
特定の方法で取得できる場合はあるものの、売却先を探すことが難しかったり、譲渡に制限があったりすることもあります。

この初心者講座では、一般の投資家が証券会社を通じて売買する上場株式を中心に説明していきます。
なお、上場しているからといって、その会社が必ず安全というわけではありません。上場会社でも業績が悪化することはありますし、経営破綻する可能性もあります。
株は、一度買ったら売れないの?
ここで、大航海時代の交易船を思い出してください。
船に出資したものの、航海が終わるまで何年も資金を回収できなければ、出資する側も困ってしまいます。
現代の上場株式には、大きな特徴があります。それは、株式を市場で売却できることです。
例えば、ある会社の株式を購入した後、別の用途でお金が必要になったとします。証券取引所でその株式を買いたい人が見つかり、売買条件が合えば、株式を売却して現金に換えることができます。
もちろん、希望する価格で必ず売れるわけではありません。
こうした、資産の現金への換えやすさを「流動性」といいます。
私は、株式が比較的換金しやすい資産であることも、大きな魅力だと考えています。
株を買ったお金は、会社に入るの?
ここで、一つ知っておいてほしいことがあります。
私たちが証券取引所で株式を購入するとき、その代金は通常、株式を売った人に渡ります。会社に直接お金が入るわけではありません。
では、証券取引所は企業にとって何の役に立っているのでしょうか?
例えば、ある会社が新しい工場を建てるため、新しく株式を発行して資金を集めようとしているとします。投資家がその会社の将来に期待していても、「一度出資したら、何年もお金を取り戻せない」となれば、購入をためらうかもしれません。
しかし、購入した株式を市場で売却できる仕組みがあれば、投資家は出資しやすくなります。
その結果、企業にとっても、新しい株式を発行して資金を集めやすい環境が生まれるわけです。
つまり、株式市場は、投資家が株式を売買する場所であると同時に、企業の資金調達を間接的に支える仕組みでもあるのです。
この関係を、少し整理してみましょう。
株式には、大きく分けて次の2つの取引があります。
① 発行市場(一次市場)
企業が新しい株式を発行し、投資家からお金を集める場です。ここでは、投資家が払い込んだ資金が企業に入ります。
② 流通市場(二次市場)
すでに発行された株式を、投資家同士などで売買する場です。私たちが普段、証券取引所で行っている株式売買は、主にこちらです。
ここでは、通常、売買代金が企業に直接入るわけではありません。

この2つの市場は、互いに関係しています。
株式を売却できる市場があるからこそ、投資家は出資しやすくなる。
そして、多くの投資家が株式を購入できる環境があることで、企業は新しい資金を集めやすくなる。
株式市場は、投資家と企業の双方にとって、大切な仕組みなのです。
株主は、どうやって利益を得るの?
株主が利益を得る主な方法には、2つあります。
一つは、先ほど説明した「配当金」です。
そしてもう一つが、株式を購入したときより高い価格で売却することで得られる「値上がり益」です。
例えば、1株1,000円で購入した株式を1,500円で売却すれば、1株当たり500円の利益になります。反対に、800円で売却すれば、200円の損失です。実際には税金や手数料なども関係します。
また、株価が上昇していても、売却するまでは利益が確定していません。会社の業績が良くても、景気や金利、市場全体の動きによって株価が下落することもあります。
株主になることと、必ず利益が得られることは別の話なのです。

おわりに|株主になることは、会社の未来に参加すること
株主になるということは、会社のオーナーの一人になることです。ただし、それは単に会社を応援するという意味ではありません。企業の成長に期待すると同時に、そのリスクも引き受けることになります。
だからこそ、その会社がどんな事業を行い、どんな人たちが経営し、将来どこへ向かおうとしているのかを考える必要があります。
第1章で紹介した二隻の船も、期待できる成果や引き受けるリスクは異なっていました。現代の株主も、自分がどの会社の未来に参加するのかを選んでいるわけです。
株式とは、会社の未来に参加するための持ち分。そして、株式市場は、その持ち分を多くの人が売買できるようにする仕組みです。
では、実際に株式を購入するには、どうすればよいのでしょうか。
銀行に行けば買えるのでしょうか。それとも証券会社でしょうか。
次の章では、株式投資を始めるための最初の具体的な手順を説明していきます。


