資産が増えても、なぜ私は会社を辞めないのか
資産形成の話をしていると、よく出てくる言葉があります。
FIRE。
経済的に自立し、早期退職する。
とても魅力的な言葉です。
私自身、資産がある程度増えてくると、
「もう会社を辞めてもいいのではないか」
と考えることがないわけではありません。
50歳を過ぎ、会社員生活も先が少しずつ見えてくる。
正直に言えば、仕事をつまらなく感じることもあります。
それでも今のところ、私は会社を辞めようとは思っていません。
理由は、お金の問題というより、
会社を辞めた後、私は何をして生きるのか。
そこにまだ明確な答えがないからです。
「辞められる」と「辞めたい」は違う
FIREを考えるとき、多くの場合、
「いくらあれば会社を辞められるのか」
という話になります。
年間生活費はいくらか。
資産はいくら必要か。
配当はいくらあればいいか。
何%で運用すれば資産は減らないか。
もちろん、これらは重要です。
でも私は、それより先に考えなければならないことがあると思っています。
それは、
FIREの前に辞めた後の人生を考える
ということです。
経済的に辞められることと、本当に辞めたいことは同じではありません。
資産が十分にあるから会社を辞める。
一見すると合理的に見えます。
でも、その翌朝から自分は何をするのでしょうか。
そこが曖昧なまま会社を辞めるのは、私には少し怖く感じます。
サラリーマンは、仕事のある生活に慣れすぎている
自営業の人が自分で会社をつくり、ビジネスを始めるのとは少し違って、多くのサラリーマンは大学を卒業すると当たり前のように会社へ入り、給与を得ながら生活してきたのではないでしょうか。
月曜日になれば会社へ行く。
会議がある。
電話がかかってくる。
誰かから相談される。
締め切りがある。
嫌なこともあります。
面倒なこともあります。
でも、それらを何十年も続けるうちに、
「毎日、自分がやることがある」
という生活が当たり前になります。
会社を辞めれば、それが突然なくなります。
最初の数週間、あるいは数か月は楽しいでしょう。
朝寝坊してもいい。
平日に旅行へ行ける。
ゴルフでも釣りでも好きなことができる。
しかし、それは少し長い夏休みとは違います。
夏休みには終わりがあります。
退職後の生活には、
「来月からまた会社へ行く」
という予定がありません。
そこから先の何十年をどう過ごすのか。
私は、これは想像以上に大きな問題だと思っています。
人間は、誰かの役に立つことで自分の居場所を感じる
私は、人間には潜在的に、
何かに貢献したい。誰かの役に立ちたい。
という気持ちがあるのではないかと思っています。
仕事をしていると、そのことをあまり意識しません。
誰かに頼まれる。
部下や同僚から相談される。
取引先と話をする。
何か問題が起きれば、解決策を考える。
それが仕事だからやっているだけのように感じます。
でも、それらが全部なくなったとき、
「自分は今日、誰からも必要とされていないのではないか」
という感覚が生まれる可能性もあります。
もちろん、会社だけが社会との接点ではありません。
地域活動でもいい。
ボランティアでもいい。
新しい事業でもいい。
趣味の世界でもいい。
ブログを書くことだって、一つの社会との接点でしょう。
大切なのは、
会社を辞めた後に、自分がどこで誰と関わり、何に役立つのか。
そこを考えておくことだと思います。
私自身は、『仕事がつまらない』という理由だけでやめるのは、少し勿体無い気がしています。
私自身も、今の仕事をいつも面白いと思っているわけではありません。
50歳を過ぎれば、会社の中で自分の立ち位置もある程度見えてきます。
若い頃のように、
「これから何者になるのだろう」
という期待感も薄くなります。
組織の中には面倒なこともあります。
人間関係に疲れることもあります。
「もういいかな」
と思う日だってあります。
でも、そこで私はもう一つ自分に問いかけます。
「では、会社を辞めてまでやりたいことは何なのか」
ここに答えられないのであれば、
「会社がつまらない」
という理由だけで辞めるのは、少し弱い気がします。
今いる場所への不満と、次に行きたい場所があることは別だからです。
逃げ出す理由はあっても、向かう先がない。
その状態でのFIREは、あとになって後悔する可能性があるのではないでしょうか。
「熱く没頭できる何か」が見つかってからでいい
私が会社を辞めるとすれば、
「これなら本当に熱く没頭できる。」
そう思えるものが見つかったときなのだと思います。
朝起きたら、それをやりたい。
時間を忘れて考えてしまう。
誰かに言われなくても続けたい。
できれば、それが誰かの役にも立っている。
そんなテーマです。
それは新しいビジネスかもしれません。
文章を書くことかもしれません。
投資に関係する活動かもしれません。
全く別のものかもしれません。
今の私には、まだ
「これのためなら会社を辞めてもいい」
とまで言えるものはありません。
ならば、急いで辞める必要もない。
次に行きたい場所を見つけてから、今いる場所を離れても遅くない。
私はそう考えています。
会社には、お金以外のものもある
サラリーマンが会社から得ているものは、給与だけではありません。
これは会社を辞めようと考えたときに、意外に見落としやすいことだと思います。
人間関係があります。
毎日顔を合わせる人がいる。
くだらない話をする相手がいる。
仕事の相談をする人がいる。
自分を頼ってくれる人もいる。
もちろん、嫌な人もいます。
会社という場所が理想的な人間関係を提供してくれるわけではありません。
それでも何十年もそこで働けば、多少なりとも良い関係はできているものです。
退職すると、それらの関係の一部も自然と薄れていきます。
だから私はFIREを、
「給与を失っても生活できるか」
という計算だけで考えるべきではないと思っています。
むしろ、
「会社というコミュニティを離れた後、人間関係をどう維持し、どう新しくつくっていくのか」
の方が重要かもしれません。
FIREには、十分に納得できる理由があっていい
もちろん、会社を辞めること自体を否定するつもりはありません。
むしろ、人生には仕事より優先すべきこともあります。
例えば、親の介護。
これまで自分を育ててくれた親に対して、できることをしたい。
子供との時間を大切にしたい。
自分自身の人生で、本当に取り組みたいテーマを見つけた。
そういう理由で会社を離れることには、十分な意味があると思います。
社会構造が変わり、親の介護をしながら働くことが難しくなる人も増えていくでしょう。
家族のために時間を使うことも、立派な生き方です。
大切なのは、
「会社を辞めたい」ではなく、「会社を辞めて何をしたいのか」
なのではないでしょうか。
お金は、会社を辞めるためではなく「選べるようになるため」
資産形成を続けてきて、一つ感じることがあります。
お金が増える最大のメリットは、
会社を辞められることではない。
むしろ、
会社を辞めるか、続けるかを自分で選べること
なのではないかと思います。
生活のために絶対に働き続けなければならない状態と、
「いつでも辞められるけれど、今は自分の意思で働いている」
という状態は、同じ会社員でも心理的にはかなり違います。
嫌なことがあっても、
「最悪、辞めればいい」
と思える。
給与のためだけに自分の考えを曲げる必要も少なくなる。
逆に、今の仕事に意味があると思えば、資産があっても続ければいい。
それは、私にとって経済的自由の大きな価値です。
FIREとは、必ずしも会社を辞めることではない。
「辞めても生きていける」という選択肢を持った上で、自分がどう生きるかを決められること。
私はその方が、本当の意味での自由に近い気がしています。
逃げるためだけのFIREにはしたくない
今の会社が嫌だから。
上司が嫌だから。
仕事が面白くないから。
資産もそれなりにあるから。
それだけで会社を辞めてしまう。
私は、自分自身については、そういうFIREはしたくありません。
辞めた直後は解放感があるでしょう。
でも半年後、一年後に、
「では自分は何をしているのだろう」
となる可能性があります。
仕事から逃げることと、自分の人生を選ぶことは同じではありません。
だから私は、
逃げるために辞めるのではなく、行きたい場所ができたから辞める。
そうありたいと思っています。
資産がいくらあるかよりも、
自分は残りの人生で何をしたいのか。
誰と関わりたいのか。
何の役に立ちたいのか。
そこに答えが出たとき、初めて退職を考えても遅くはない。
今の私は、そう考えています。
そして、それまではもう少し会社員という「寄り道」を続けてもいいのかもしれません。
奥野以道

